自分の高度な専門技能・知識を多くの人に認めてもらうことと、そのために「自分の刻印と署名を確立する」ということが大事だ。
前回は原田マハ著の小説「風のマジム」を紹介した。主人公の伊波まじむが、沖縄のサトウキビを使い、ラム酒を作る会社を起こす話だ。自分の夢がきっかけで、地域の人を巻き込み、そこにしかない材(人・もの・場)を活かし、しかも、周りの人から自分の名前をつけることを勧められるとは、本当に感動的な話だ。
そういえば教師の仕事も、教え子の心に、出会った教員の名前・姿・語ったことが刻まれる。「お前たち、こんなこともできないのか」と言うような先生にはなりたくない。できることなら、風のマジムのように、「真心」の素晴らしさを伝え、自分の夢を実現していく人育てをしていきたいものだ。教員の刻印は、出会った子にしか伝わらない。一流の音楽が演奏できたり、教育専門書に原稿を出すような人は、その独自性を伝えることができるかもしれないが、一般の教員は、出会った一人ひとりの子の心の中に刻まれるだけだ。ただ、その温かい思いが伝われば、生徒が大人になってから、「先生合唱の指導に来てください。」とか、親から「うちの子が個展を開くのでお出かけください。」などと声がかかるのだ。そのどちらも最近の私の生活の中で実際にあったことだ。
コロナ騒ぎで止まっているが、最後の担任したクラスの生徒たちとは今でもLINEで繋がっていて、毎年正月に飲んでいる。それはかなりお友達感覚だが、私にすれば、変に先生扱いされるより親しみやすくてありがたい。自分の仕事にささやかな署名を38年間もしてきたおかげで手に入れた喜びなのだ。